「定本育児の百科」 松田道雄 著(小児科医・著述家・育児評論家、1908年 - 1998年)
今でも診察室においてパラパラと目を通すことがあります。古い本ですがいつの間にか忘れていた大切なことを思いださせてくれます。頑固だが優しいおじいちゃんが子や孫を心配して書いているような本です。
一部抜粋します。
~母親になれるか~
育児に自信がないから子どもを作らないというのは、まちがっている。
子どもを産まないうちから、育児に自信のある人間などいない。
水に入ったことがなくて水泳に自信のある人間がいないのと同じだ。
人間ができていないから、赤ちゃんを育てる資格がないと思うのにも賛成できない。
人間は完成するものでもないし、完成に近づいたにしても、そのころは子どもを育てられない。
だが、親になるということは、人間を完成に近づける機会であることはまちがいない。
一方、子どもの側からすれば、あまり自信のある親は、よい親ではない。
子どもといっしょに人生を探求し、いっしょに育ってくれる親がいい。
~父親のすること~
時代が変わったという認識をまず持たないといけない。
出産で男が仕事を休むなどとは、という古い世代の軽蔑に耐えるには、この認識が必要だ。
以前は出産も育児も、女たちだけでできるような家族体制であったが、
現代のように若い夫婦だけで家族を作っていて、
一方が動けなくなったら、残っているほうが手伝うしかない。
出産のために妻を病院に届けたら、夫は即主夫にならねばならない。
日常生活の主は、労力・知力がいることを、あらためて知るであろう。
ことに赤ちゃんがどこかに障害があった場合、みんないっしょに
たたかおうと父親が決心することが、唯一の救いである。
父親は、それによって人間としての硬度をきたえることになろう。
おれの家にはそんな遺伝はなかった、などというのは、最低である。